スペインの石。
 
 
 
■ 十年位前か、「モア」とかいう雑誌に「四季・奈津子」という小説が連載されていたことを覚えている。
 写真が良く出来ていて、五反田にある原美術館は一躍有名になった。
 その小説の扉のところに、ロシア革命の際、革命の成り行きに幻滅して死んだエセーニンという若い詩人の詩が引用されていた。
 
 ボスボラスへはいったことがない
 ボスボラスのことは 君 きいてくれるな
 でも ぼくは海を見たんだ 君の目に
 碧の火の燃える海なのだ
 
 
 
■ ボスボラス海峡というのは何処にあるのだろう。
 何時だったか、向こうへ行った女友達に、スペインの石を拾ってきて貰ったことがあった。
 声を出して読むにはすこし困る詩である。
 
 
 
■ その小説の中に大井埠頭が出てくる。
 今のように整備される前で、あちこちに埋め立て地があり、しかもその中に入ることさえできた。
 サーブのターボだったかを、ゲイの俳優が中で振り回す場面があって、それで覚えているのだと思う。
 エンジンのキーが、フロアに付いている奴だ。
 それにしても八十年代ってのは、女性の時代だったのだろうか。
 
 
■ 埋め立て地の橋の上から東京の方角を眺めると、遅くまでタワーの灯りが付いている。背の高いビルが沢山建って、昔よりも運河の水が明るくなったように見える。
 海岸通りを走って帰るのだけれども、横浜にあるのとはすこし違う。